甲状腺疾患合併妊娠

Eeywords:
TRAb (TSH receptor antibody)(TSH受容体抗体)
母体血中TSHI受容体抗体(TRAb)が胎盤を通過し,一過性の新生児バセドウ病や甲状 腺機能低下症を引き起こす。
測定方法:T B I I (TSH binding inhibiting immunoglobulin)  TSAb (thyroid stimulating antibody)

抗甲状腺薬
抗甲状腺薬
MMI チアマゾールthiamazole(1-methy-2-merucaptoimidazole)
商品名メルカゾール Mercazole 5mg
PTU  プロピルサイオウウシル propylthiouracil (6-propyl-2-thio-uracil)
商品名: 
チウラジール thiuragyl 50mg
      
プロパシール Propacil 50mg
使用 両者の1錠は等力価として扱われているが,実際にはMMIのほうが力価は高く,治療効果のうえからもまずMMlを使用し,副作用が出た場合にはPTUに変更する.
新生児奇形:MMI, PTU,とも3%、非服用者と有意差はない。(ACOG 2002)
器官形成期(妊娠8週まで):MMIは稀な奇形が現れるとの報告。MMIよりPTUを選択する。(北米内分泌学会、日本甲状腺学会)
授乳:PTU:母乳/血清=1/10, 母乳可能
    MMI:母乳/血清=1、   母乳を避ける。
(日本甲状腺学会:PTU300mg/d, MMI10mg/d 以下は母乳可。)
甲状腺ホルモン製剤
レボチロキシンナトリウム: チラーヂンS 50μ


パセドウ病
[疾患概念]
先天性の遺伝的素因のもとにストレス,喫煙などの環境因子が加わって,甲状腺のTSH受容体に対して自己抗体が産生され,これが甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの産生が過剰となり,甲状腺械能先進症をきたす疾患。高頻度に合併する眼球突出と前脛骨粘液水腫の原因は不明であるが,甲状腺と共通の自己免疫的機序が関与していると考えられ,バセドウ病眼症を認めるが,甲状腺械能は正常な場合も,euthyroidGraves病またはeuthyroidophthalmopathyとしてバセドウ病と同一の疾患概念で扱う.

[一般検査]
1)コレステロール低値.
2〉アルカリホスフアターゼ(骨型ALP)高値.(ALPは治療後はさらに増加することが多く, 半年から1年くらい高値が持続することもあるので,抗甲状腺薬の副作用と誤診しないようにする.)
3)AST,ALT軽度増加.100IU/mほ超えることはまれ.
4)尿糖陽性,空腹時血糖値軽度高値.
[内分泌検査]
1)血清TSH測定感度以下.
2)FT4高値(基準値:0.8〜1.7ng/dJ,6ng/dJ以上ならほぼバセドウ病).
3〉FT3高値(基準値:2.2〜4.1pg/mJ,15pg/mJ以上ならほぼバセドウ病).
4)TSH受容体抗体(TBII,TRAb)陽性.
5)放射性ヨード摂取率30%以上,99mTc持取率5%以上.
[治療]
 甲状腺と眼窩に対する自己免疫反応が是正され,甲状腺機能が正常化し,眼症が治癒するようなバセドウ病の理想的な治療は存在しない.現在行われているバセドウ病の治療は抗甲状腺薬療法と放射性ヨード治療と手術である.
1)抗甲状腺薬療法:妊婦を含めてすべての患者が適応となる.抗甲状腺薬としてはチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)がある.両者の1錠は等力価として扱われているが,実際にはMMIのほうが力価は高く,治療効果のうえからもまずMMlを使用し,副作用が出た場合にはPTUに変更する.MMIは20〜30mg/日から投与を開始し,FT4とTSHを指標に4、8週日より減量を開始し,FT4とTSHが正常に維持されるように投与量を調節し,TRAbが陰性になったら休薬する.甲状腺ホルモンが増減して安定しないときは抗甲状腺薬を減量せずに機能低下のぶんを甲状腺ホルモンの投与で補うblock and replace治療を行うこともある.副作用..



パセドウ病合併妊娠
 バセドウ病患者において,胎児の甲状腺機能を決定しているのは,母体血中TRAbと母体が内服した抗甲状腺薬である。両者は胎盤通過性があり,母体血中濃度と分娩直後の臍帯血濃度に差はない。すなわち母体由来のTRAbは,妊娠後期の胎児甲状腺を刺激して胎児甲状腺機能を亢進させ,胎盤を通過した抗甲状腺薬はその抑制に働いている。胎児血中抗甲状腺薬は娩出後速やかに消失するがTRAb消失には3カ月ほどかかり,母体TRAbが高値の場合には新生児は甲状腺機能亢進症となる。これが新生児バセドウ病であり,その予防は抗甲状腺薬治療により母体のTRAbを十分抑制することである。抗甲状腺薬のプロピルサイオウウシル(PIU)とチアマゾール(MMI)とで母体血中濃度と臍帯血濃度に差はない。しかし,短期的TRAb 抑制効果はPTU に比べMMIが強いので,TRAb 高値の妊婦にはMMI を用いる。 抗甲状腺薬治療中は母体FT4値を基準値域の高め,あるいは軽度高値に維持すると,新生児血中FT4値は基準値内となる。

阻害型抗体 母体の甲状腺機能低下症を引き起こすTRAbは阻害型抗体と呼ばれ,新生児一過性甲状腺機能低下症を引き起こす。母体は甲状腺ホルモン補充により妊娠継続可能であるが,現在のところ阻害型抗体を下降させる治療は行われない。


新生児バセドウ病 (新生児一過性甲状腺機能亢進症)
[成因と病態]
 バセドウ病に雁患した母親から,経胎盤的に新生児に移行したTRAbによって発症する。移行した,TRAbが70から80%以上の高値の時に発症する。発症はバセドウ病の母体の1〜2%程度である。
[臨床症状]
 一過性甲状腺機能亢進症状では,頻脈,発汗,多呼吸,振戦,易刺激性,眼球突出,甲状腺腫,心不全,多軌下痢などの症状が出現する。気づかれる症状で最も多いのは頻脈である。
[検査]
l)母体と新生児の血中TRAb
新生児血中TRAbは母体の値と良く相関する。したがって周産期に母体のTRAbを測定すると,新生児が機能亢進をきたす可能性を予測できる。新生児が機能亢進をきたすのは,TRAbが70%以上り時である。未熟児ではより低値でも発症することがある。
TRAbは生後2カ月頃には正常となる。新生児が機能亢進とならなかった程度の値では,早期に陰性化する。

2)新生児血中TSHとFT4の変動
症状を呈する時には,臍帯血あるいは新生児血中TSHは感度以下である。母親が抗甲状腺剤を4〜6綻服用していると,高TSHとなる。その場合でも生後7日頃には正常となる。FT4は生後7〜10日頃に正常のまま経過するものと、高値となる例とがある。

[診断(鑑別診断)]
 母体のTRAbを把握しておくことが重要である。未熟児以外でTRAbが70%以上頻脈でTSHが感度以下の時である。FT4の値の評価は難しい。母が抗甲状腺薬を服用し,新生児が高TSHの時には生後10日ごろまで経過をみて判断する。
 


新生児一過性甲状腺機能低下症
[成因と病態]
 バセドウ病とは異なり,甲状腺機能抑制活性を有するTRAbにより,新生児の甲状腺が抑制され,機能低下をきたす。母親は,甲状腺薬を服用しなければ、慢性甲状腺炎のために甲状腺機能低下症となる。抗体が高値の時に発症する。

[臨床症状]
一過性甲状腺機能低下症では,黄垣の遷延,活動力の低下など,先天性甲状腺機能低下症でみられると同様に非特異的症状である。

[検査]
 血中TRAbの変動は機能冗進症と同様である。

[診断(鑑別診断)]
新生児一過性甲状腺機能低下症では,母親が甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモンを服用し,TRAbが高値であることから診断は容易である。